平成21年8月下旬

アブトの道を歩く
かつて信越本線は碓氷峠を越えるとき、その急勾配のためアブト式という駆動方法をとっていました。
現在では横川と軽井沢の間の路線は廃止され、バス輸送が行われています。その路線跡の一部を歩くことができるというので行ってきました。
車を横川の「碓氷峠鉄道文化むら」の駐車場に置かせてもらい、そこからシェルパ号で約2km先の「峠の湯」まで行きます。
ゴトゴトと機関車に後ろを押された2両編成の列車で登ります。途中、この路線が電化された際に使われていた変電所のところで小休止し、約20分で到着です。
この列車は午前2往復、午後3往復しているようです。(始発が10:00)
「峠の湯」から歩き始めます。
線路の跡は整地され、遊歩道になっています。目指すのは終点の「めがね橋」です。行程は約2kmほどで、それほど急なところはないようです。
周りの自然を楽しみながら、のんびりと歩きました。
途中、いくつものトンネルを通ります。どのトンネルも、機関車が列車を押し上げていたところで、真っ黒になった煉瓦がその昔を偲ばせます。煉瓦積みの造りは、最近のコンクリート造りとは異なった美しさがあります。これを作るためにたくさんの方が関わり、殉職された方も多かったそうです。
軽井沢までのすべての路線跡を歩くことはできません。現在は通称「めがね橋」と言われる碓氷第3橋梁まで行くことができます。
ここはそのめがね橋の上です。真っ直ぐに次のトンネルへ続いています。
コンクリートや鉄骨のない時代、煉瓦や石を積み上げてこれだけ大きな橋梁を造るのは大変なことだったと思います。
めがね橋から下りて、その全容を見るところまで行きました。きれいなアーチが見事です。
下を通る人と比べれば、その大きさがわかると思います。峠を越える列車を通すために、先人は大変な努力をしたことを目の当たりにした思いです。
山の緑と煉瓦の色が、何とも言えない美しさで調和しています。今はこのすぐ脇を国道18号線が走っているので、直接この場所に来ることができます。でも、一歩一歩登ってきたほうが、この景色に出会った感動が大きいように思います。
帰りは路線のすぐ脇にある、「碓氷湖」(坂本ダム)に立ち寄りました。赤いアーチ型の橋が架かって、湖畔を一回りすることができます。碓氷川をせき止めて作られた人造湖ですが、静かな湖でした。
途中のトンネルには足下を照らす照明が取り付けられているので、歩くに不便はありません。トンネルの中はひんやりとして、足音が響き、トンネルに入ってきた人の話し声が大きく伝わってきます。
このトンネルを蒸気機関車が登るとき、煙が充満してしまうため、大変な苦労だったようです。機関車が入るとタイミングを見計らって入り口にカーテンを引く係の人がいました。カーテンを閉めると、機関車の進行による負圧で煙を閉じこめられます。そんな工夫をしていたとは驚きです。
路線跡を歩いていると、鳥とは違った鋭い声が聞こえてきました。振り返ると背中に赤ん坊を乗せたサルでした。
しばらく様子を見ていましたが、そのうちに藪の中に入っていきました。
ここは今でも野生のサルが出るほどの自然が残された地域のようです。
「峠の湯」からまたシェルパ号に乗って鉄道文化むらまで戻りました。
この線路の脇には元の線路跡を整備した遊歩道が造られていて、下の鉄道文化むら前まで歩くことができます。

シェルパ号に乗るには鉄道文化むらの入園料と乗車券が必要ですが、むらの前から続く歩道を歩けば、1時間半程でめがね橋まで行けるようです。
「峠の湯」は交流館となっていて、入浴施設や食堂があり、のんびりすることができます。
大きな駐車場があるので、車で来ている人の方が多かったようです。
外観も「めがね橋」を模したのか、煉瓦造り風になっています。